ライフタイムリスペクト

zushonos2006-09-13

私が小学校4年生のとき、ビックリマン関係の記事読みたさに毎月購読していたコロコロコミックで連載が始まった「あまいぞ!男吾」は、当時の私にとってはおそらく「他の漫画とはなんだかちょっと違うなあ」という程度の印象だったと思う。
コロコロ(ときどきボンボン)+ジャンプという組み合わせで黎明期を迎えた私の漫画雑誌暦が、ジョジョが3部に入って好みでなくなりジャンプ購読中止、いくら買ってもヘッドシールが当たらないこと(生涯ヘッド獲得履歴:魔胎伝ノアx1(ロッチ版ヘラクライストを除く))に腹を立てコロコロ購入中止と、最初の転換期にさしかかる直前であった。ちなみにその後購読雑誌はファミコン通信とログインが主体になり、ジャンプ立ち読み期が比較的長く続く。中学・高校のときにモーニング連載の漫画の単行本を多数読む機会に恵まれ、ジャンプ立ち読みを止めモーニング立ち読みに移行。ヤングなんとかを経ずにおっさん向け漫画導入期だ。大学入学時にドカベンプロ野球編が始まったのでチャンピオン立ち読み開始、木曜日は立ち読みで忙しい期に入り、立ち読み誌を増やしながら現在に至る。
ともかく「男吾」は私が小学生のときいったん視界から消えた。しかし、中学生のある日、小倉に遊びに行った折に立ち寄った本屋で久しぶりに手にとってみた(当時はゆがんだストイシズムとかなんとかで「中学生がコロコロコミックを手に取るのはかっこ悪い」と思っていたような気がするが、きっと旅の恥は掻き捨てという考えがあった)コロコロコミックに、まだ「男吾」が連載されていたのだ。いや、表紙に「男吾」が載っていたから手に取ったのかもしれない。そうに違いない。面白かった。しかし、どの回だったのかは思い出せない。後に図書室でMoriyamaあたりに「男吾まだ連載しよるの知っちょったか」てなことを話したような気がする。
そしてまたしばらく視界から消える。東京の大学に入学したは良いが対人コミュニケイションに難ありな私は、よく一人で神保町に出かけ、金もあまり持っていないので、新刊の立ち読みか、古本屋で一冊100円の本を見つけてまとめ買いするかして、時間をつぶしていた。
余談だが、当時はテレビも持っておらず、また芸人にほとんど興味がなかったので、週刊ヤングなんたら(マガジンとかサンデーね)の表紙に踊る「モーニング娘」という文字を目にしては「なんで(モーニングでなく)ヤングなんたらの表紙にモーニングなんじゃろか」と思い、「パイレーツ」の文字を目にしては「キン肉マンやら銀牙やら男塾やら焼き直し漫画ばっかりと思っていたらついに進め!パイレーツも焼きなおしか」と思ったりしていた。
たぶん、店頭で社会思想社東京創元社ゲームブック発見→店内に入ってみる→ついでに漫画も見てみる→「男吾」単行本発見、という流れだったと思うのだが、数年ぶりに再会を果たす。最初は不ぞろいに10巻分くらいを買って読んだ。
それ以前に「男吾」を読んだときは、コロコロボンボンジャンプ程度しか読んだことがなく、言ってみれば読書経験が決定的に不足しており、正直なところ、この作品のありがたみがわからなかった。このときは、少なくとも和田慎司や村上もとか浦沢直樹大友克洋吉田秋生の漫画を経験していたが、その上で「これはおもしろい」と感じ入った。
残りも買い揃えるべく古本屋通いを続ける(すでに絶版で新刊書店では入手不可だった)が、1冊(6巻だったか)だけなかなか手に入らず、夏休みに故郷に帰った折、ことうしんいちくんに車を出してもらい、県内の古本屋めぐりをした結果、下関市内の店で発見したときの喜びに匹敵する経験は後にも先にも覚えがない。
そんな「あまいぞ!男吾」のあらすじを紹介。
男吾は連載開始当初は小学5年生。ちなみに同時期に連載されていた「あほ拳ジャッキー」などと違い、男吾は連載が1年経過すると1年進級する。連載は6年間続き、中学生編を経て最後は高校生になる(が、読者層との接点を保つためであろう、高校1年生でありながら小学校の教師になってしまう。それから実はあほ拳ジャッキーはタイトル以外よくおぼえていないのでもしかしたら進級していたかもしれん。間違っていたら御容赦あれ)。
さて、そんな主人公・巴男吾はケンカが趣味のガキ大将。ある日、男吾のクラスに美少女・奥田姫子(お姫)が転校してくる。男吾と姫子の惚れた腫れたを軸に、複雑な親子関係とかクラスメイトの病気の弟とか教育ママ(PTAの重鎮)に育てられて性格がゆがんだ少年がいろいろあって自分の不注意で負った怪我を男吾のせいにしたりとか誰ぞが誰ぞに一目ぼれとかクラス委員選挙とか体育祭とか男吾の幼馴染が出てきて許婚でこそないが見合いするとか父ちゃんが会社クビになってお年玉稼ぐために男吾がアルバイトするとか意外にも林間学校はないなとかともかく盛りだくさん。
あれま、こう書くと「うわさの姫子」と一緒ですなこれは。男吾のバアちゃんと梅宮姫子のじいちゃんの造形もそういえば似ているような。うわさの姫子を読んだ直後に男吾を読み直すと「うわさの姫子へのオマージュかいな」と思ってしまう部分が多々あるのも確かだ。同じく主人公が小学生5年生からスタート、学園もの(余談ですがドカベンは初版あたりの単行本では「学園青春コミック」とかなんとかの分類になっておりますよ)ときたらまあ押さえなくてはならないネタというものもあるでしょうから似た設定も出てきますわねえ。
が、しかし、年取っても素直に楽しめる漫画としては「男吾」の方が圧倒的に優れている。連載の最初から絵やせりふ回しが安定しており、安心して読める。伏線の張り方も洗練されており、今読んでも感心する。「男吾は絶対にポケットに手を突っ込まない」なんてえのは3年くらいかけて育て上げた伏線で、実に見事。キャラクターがきちんと年をとっていくのも、半端な設定リセットや巻き戻しがないので安心できる。
そして何よりキャラクターが立っている。名前がついていて、存在感のないキャラクターがほとんどない(例外:ヒデコ、ヘリック津田)。中学編のヒロイン、円谷操が最高。以前「萌える対象はジャックさんだけ」と書いたが、読み返すと「操萌え」だ。柔道編の「アタシ強いんだから!」なんてもうたまりません。ただ、10年前はアンチお姫で操一辺倒だった私も、今読むとお姫の良さもわかる。年取ったなあ。
そうはいってもだんだん操がフェイドアウト、お姫率が高くなりながら終盤に向かう。やっぱり不満。最後はこれまでのキャラクターが総登場しながら全国ケンカ連合主催の「ケンカトーナメント」。
最終話は次世代ねたで「物語は続きますよ」風味にまとめつつ、最後の最後に第1話のエピソードをまんま踏襲した場面が入る。まとめ読みした私でも泣けたが、6年間連載を追った人は3日くらい涙が止まらなかったのではなかろうか。
私があと50年漫画を読み続けたとしても、ベスト10から外れることはないだろうなあと思える作品である。

あまいぞ!男吾 (1) (トラウママンガブックス (第3弾))

あまいぞ!男吾 (1) (トラウママンガブックス (第3弾))

(これは復刻された英知出版版。こちらは新刊で買いましたよ)

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