死亡フラグ

借りてきたうわさの姫子を読了。貸主宅に現存していたのがてんとう虫コミックス1-9巻と11巻で、Wikipediaによれば31巻まで発売されたというから、およそ3分の1を読んだことになる。
やはりWikipediaによると、連載時の掲載誌が「小学五年生」「小学六年生」だったそうで、主人公は5年生もしくは6年生を繰り返しているようなのだが、8巻あたりになると、剣道で「第二中」と試合をしているので、中学生とも受け取れる表現が散見される。
基本的には1年で1シリーズ12話程度。主人公の梅宮(っつう苗字のヒロインはおそらく今後現れないのではなかろうか)姫子、岡真樹の惚れた腫れたを軸に、生き別れた親とか病弱な美少年とか教育ママ(PTAの重鎮)に育てられて性格がゆがんだ少女がいろいろあって姫子に嫉妬、しまいにカンニングとかフランス人とのハーフ先生に一目ぼれとか林間学校とかクラス委員選挙とか体育祭とかともかく盛りだくさん。
最初は先日の感想のようにメガ六の造形だとか、キャラクターのせりふ回し、突然始まる一分間推理劇場(たぶん掲載誌の都合でその手の企画を入れる役を担ったのだろう)でやたら人が死ぬことなどにうけて笑っていたが、作者の技量が上がったのか、連載を続けることでキャラクタの背景設定が蓄積されたせいか、後半は話の展開が楽しみになってきた。姫子と真樹の距離をはじめ、各キャラクターの背景は掲載誌での1年が経過してもリセットされず(若干巻き戻されるきらいはあるが)、蓄積されていく。
連載時とまったく同じ内容が収録されているのかどうかはわからんが、ほぼ同内容だったとすると、毎年新たな「小学六年生」の読者が生まれるわけで、過去の単行本を読まずに「小学六年生」で初見の読者は「最初から妙に馴れ馴れしい主人公だな」という感想を持ったのではなかろうか。やはり最初は美少女転校生と女嫌いのガキ大将という関係から始まるのが望ましいのではなかろうか。まあいいか。
9巻の後半からは、学校を舞台にしたネタが尽きてしまったのであろうか、小学生だけでヨットに乗り込んだら漂流してしまって大変シリーズが始まるのだが、そのオチがつくはずの10巻がなく、もどかしい。こんど漫画喫茶で全部読もう。
圧巻は第五部「いそうろうと姫子」。推察するにこの第五部は「小学五年生」→「小学六年生」と2年にわたって連載されたのであろう、全21話にわたる長丁場だ。前の部で姫子と真樹はキスをしたと誤解されるくらいの仲になっているのだが、そこへやって来たのが姫子の幼馴染・徳川秀吉(ひで坊)。あまつさえひで坊は姫子の婚約者でもあったからさあ大変。ひで坊はちょっとがさつだが運動は真樹よりもできて背も高く男前。方や真樹は父の会社が倒産し、家計を助けるため新聞配達と牛乳配達をかけもちするなど、不利な状況が続く。もう一人の幼馴染・あけみを交え(とはいってもこちらは比較的簡単にフェードアウト)、姫子をめぐる闘いが続き、その中で真樹とひで坊の間に友情が芽生えたりもする。
このシリーズでは姫子が発熱、ひで坊も発熱、真樹は寝不足、姫子のじいちゃんは脳溢血(?)と、やたら不調の人が出る。そんな中、シリーズ終盤に全員が回復した後のひで坊のせりふ「おれは大丈夫さ。からだだけは丈夫だもの。」に、死亡フラグを読み取った俺様の勘は見事に当たり、その後火事に巻き込まれた姫子を救ったひで坊は、自身も大やけどを負い、最終話で死んでしまう。
「ヒデヨシ」で死なないのはアタゴオルくらいじゃな。
で、本編も堪能しておきながら、もっと印象に残っているのは、各シリーズ終了時に出てくる作者のコスプレ企画と、3巻に収録の作者デビュー当時の作品だという短編。どちらもおそらく復刻版には収録されていないだろうというくらい刺激的な内容だ。
前者はなんとか現物を読んでいただくとして、後者のあらすじを紹介。
主人公は、10歳の天才少女科学者ベッシイ・ウィルソン。ウィルソン宇宙科学研究所の一人娘だ。月ロケットの軌道計算を暗算でやっつけてしまうような天才だが、常にペットのウサギを連れ歩き、母親には「昼寝の時間」を強要される、あどけない少女。
そんな彼女も、2年前まではテストは常に0点。母親には「どうしてあんなに頭がわるいのかしら?いやになるわ。」と思われ、父親には「まえからおかしいとは思っていたが」呼ばわりされ、職員会議では「ひどい低脳児」呼ばわりされ、担任には「ふつうの子が知能指数百くらいだから。あの子はせいぜい三十くらいね。」呼ばわりされていたのである。級友にもばかにされ、暴力を振るわれそうになることもあったが、ボーイフレンド(多分)のボブ(彼も勉強はできない)が守ってくれていた。
そんなある日、父親の研究室で、勝手になんだかよくわからん薬品を混ぜ合わせたところそいつが爆発、頭を打って死にかけるが、生き延びたところ、頭の打ち所がよくて天才になっていたのだ。
最終ページで、母親から父親の実験を手伝うように言われたベッシィだが、そこへボブ(この人は頭打っていないので従来のまま)が「ベッシイあそびにいかないかい?」と誘いに来る。ベッシイは「あれにのっていきましょう。ボブものせてあげる。」と、なんだかよくわからんロケットに二人でまたがり、どこかへ散歩しに飛んでいく。めでたしめでたし。
ボブの扱いが変わらないことと、この短編のタイトルが「すばらしい奇跡」というところに痺れた。なんつうか時代は変わるね。