ABBAで継続

木曜日は仕事で使う写真を撮るため、11時前に自宅を出て、バイクで東京都内を西から東へ走った。整備不足のチェーンの音が気になるが、やはりバイクは便利だ。特に今回は歩道上の移動が多かったので、エンジンを切って押して歩くことが多かった。合計すると結構な距離を押したと思うが、それによる疲労を感じないのは昨今の運動の成果かもしれん。

帰りがけに、ボールペンの替え芯を買うため神保町に寄った。欲しいのはパイロット製4色ボールペンの替え芯だ。このボールペンは、勤務先での業務(脱税もとい脱稿までの作業)に大変有用である。3年ほど前に嫁から買い与えられた初代は、インク切れを起こしたので、勤務先近所の文房具屋(在庫売り切ったら店じまいしそう度80)で替え芯を購入し、重用していた。4色ボールペンの有用性はジャックさんにも認められ、何かの折に贈呈した。最近ではシャックリング兄貴も使っている(あれを持って話すとどうしても芯の出し入れでかちかちやってしまうので、我慢するように心がけていたが、兄貴もかちかちやっていて共感)、昨年赤インクがなくなった折、前出の文房具屋と、もう一軒(しそう度87)で「赤は在庫切れ」と言われ、こちらは堪忍袋の緒切れ(どこかで「切ってはいけない堪忍袋と親子の絆」てなことが書かれた看板を見たが、通常切るのは堪忍袋の緒じゃろうと違和感をおぼえて困惑)。仕方なく4色ボールペン自体を買い足した。2代目もしっかり使いこみ、これまた赤インクが切れ掛かっていたので、大きな店で替え芯を買いだめしておこうと思っていたのだ。

でかい書店の文房具屋部門のような店舗に入った。替え芯については、ボールペン売り場に「レジカウンター内に在庫があるので店員に声をかけろ」てなことが書いてあった。隣接した売り場にやや高級筆記用具があって、欲しくなったので、そいつを持ってレジに向かった。

店員にやや高級筆記用具を渡し、それとは別なボールペンの替え芯を所望する旨伝える。どんなボールペンかと訊かれたので、パイロット社の4色ボールペンだと回答。店員は「ボールペンそのものをお持ちではありませんか」ときたもんだ。パイロットの4色ボールペンにはそれほど種類はあるまい、そのほうで調べるが良いと、立腹しかけたが、誤解のないようにするという方針なのだろう。それはなるほどすばらしいことではないか。持参はしていないが、売り場に同じボールペンがあったと伝えたところ、店員は「それで結構ですからこちらにお持ちください」ときたもんだ。てめえで取りに行けよと立腹しかけたが、誤解のないようにするという方針なのだろう。それはなるほどすばらしいことではないか。売り場に引き返し、愛用のボールペンと同じモデルで、ついでに、何色かの本体カラーヴァリエイションがある中から、わざわざ同じ色のものを選んでレジに戻り、このボールペン用の替え芯を、各色2本ずつ(計8本)買いたいと伝えた。

店員はボールペンを受け取るや否や、即座に先端半分をつまんで回転させ始めた。と書くととてもわかりにくいかもしれんと思えてきたが、つまり分解して、芯の形状を確認しようとしているのである。即座に分解方法を理解するとは、実は店員も愛用するモデルなのか、あるいは教育が行き届いているのか(あるいはボールペンの構造はおしなべてそういうものなのか)。ともかく芯を一瞥した店員は、私と、分解状態のボールペンをレジカウンターに残し、奥に引っ込んだ。

やや間があって、店員は3本の替え芯を持って戻ってきた。遠目にもそれが赤、青、黒だとわかった。「緑の在庫がありませんがよろしいですか」と尋ねられた。これほどの規模の店でも在庫が切れてしまうのかと残念に思ったが、ともかく赤の替え芯が補充できるのはありがたい。2本ずつ所望したのに、店員は1本ずつしか持って来ていなかったので「ではその3色だけでよいので2本ずつください」と伝えた。店員はやや不思議そうに「赤、青、黒を2本ずつでよろしいですか」と聞き返してきた。替え芯をまとめ買いするのがそんなにおかしいのだろうか。ともかく、やや高級筆記用具2100円と、替え芯63円x6本の計2478円を支払い、意気揚々と引き揚げた。出発時は3時間くらいで写真を撮って帰ろうと思っていたが、結局自宅に着いたのは18時を過ぎていた。

さっそく替え芯を装着しようと、4色ボールペン本体を鞄から取り出した。我ながらよく使い込んでいて、素敵な道具の佇まいを見せている。これからも愛用し続けることだろう。次に、買ってきた替え芯を、文房具屋の袋から取り出した瞬間、強烈な違和感をおぼえ、ひどく困惑した。

4色ボールペンは、通常のフルサイズボールペンと比べると、全長はやや短いくらいで大差ないが、芯の長さは半分程度である。内部にその短い芯が4色分入っていて、それぞれの芯に直結したスイッチを押し下げると、芯の先端が筐体の外に数ミリメートル顔を出す。これにより、希望した色で線を描くことができるようになるのだ。もちろん、線の表現次第で、文字や絵を表すことができる。

袋から取り出した替え芯は、フルサイズボールペン用の長いそれで、4色ボールペンの全長よりも長かった。

店でのやりとりがフラッシュバックした。『ボールペンそのものを持ってきてください』という店員。すばやく分解し、替え芯の種類を確認する店員。2本ずつといったのに1本ずつしか持ってこなかった店員。緑は在庫がなかったという店員(フルサイズの緑はそもそも商品がないのではなかろうか)。

レジでよく確認しなかった自分を責めなくてはならないのだろうか。しかし、現物持ってこいと言われ、目の前でそれをすばやく分解されたら、正しい商品が出てくると思って当然で、疑うことは失礼であろう。とはいえ、水面下での業務においては、そんな過信を散々裏切られ続けてきた自分である。そろそろ学習してしかるべきではないか。

そして、こうして思い煩う原因が、1本63円の商品x6だという現実。

本項のお題は、往年のファミコンゲームソフト「怒」のコンティニューコマンドが『ABBA』の順にボタンを押すだけの実に単純なものだったことに由来する。ところでファミコンゲームソフトが往年のものなのは当然だ。

「がつんと言ってやれ」と嫁にせかされ、電話代も馬鹿にならない(何しろ対象は378円だ)が、電話をかけて善処を要請した。専用芯と今回売りつけられた芯の単価は同じ(ついでに緑も在庫がある)という。緑2、赤2、青1、黒1を郵送してもらい、それが届き次第、手元の芯を着払いで返送することになった。

こちらからの返送分は巨大な箱に入れて、無駄な送料を払わせてやろうと企んでいたら、金曜日中に発送するといっていた正しい替え芯が土曜日終了時点では未到着。ABBA