これまでにない

zushonos2009-06-26

川崎に住み始めてから頻繁に通っているカレー専門店・パピーで食うカレーとスパゲティは、もはや私にとってのソウルフードと言ってもよい。もしかしたら(というよりも、おそらくは)、宇部市民のソウルフード・一久ラーメンよりも多く食べているかもしれない。
今日も瀬田交差点近くのパピーで晩飯を食った。余談だが、どうにもあの店を「用賀のパピー」と呼んでしまう。パピーはこのほか元住吉に店舗があるが、業務の帰りに立ち寄りやすいこちらの店舗に通っている。検索するとどうも上野毛店という表現が出てくるなあ。
今日はチキンカレーとバジルスパゲティのセットを頼んだ。パピーで「セット」を頼むと、食前にサラダ、食後に飲み物が付いてくる。サラダは定められた作り置きのものだが、飲み物は、コーヒーか紅茶で、いずれもホットかアイスを選べる。カウンターの内側に置かれたポットで、何杯かの量をまとめて作っている。かなり俺様好みのカレーと、まあまあ俺様好みのスパゲティがそれぞれ大量に盛られ、サラダと飲み物がついて1000円弱。俺様にとって、質・量・価格が高次元で組み合わさった、稀有な店である。
さて、俺様くらいの古強者パピー利用者になると、セットメニューを頼むとき、店員に問われる前に、カレーの辛さと飲み物の種類を伝える。かつての俺様がそうだったように、経験の浅いパピー利用者は、選択肢を心得ていないというよりも、選択できることすら知らず、店員に問いかけられてとまどってしまう。まあ、2,3回通えばわかることだ。
今日の店員は、これまでに見た記憶がないおっちゃんだったが、古物の風情だった。相手に惑わされず、いつものように、カレーは辛口、飲み物はアイスティーを所望する。今日は蒸し暑いのでアイスティーだったが、寒い時期はあたたかい紅茶を頼むようにしている。ちなみに辛さは辛口、中辛、甘口のほか、激辛が注文されている現場を目の当たりにしたことがある(伝票にも選択肢が記されていたような気もする)。辛いのは好きだが、パピーのカレーは辛口が俺様向きだと思う。注文すると即座に出てくるサラダを食いながら、カレー&スパゲティを待つ。着座したときに広げられた漬物皿の中身は、福神漬、壺漬、らっきょうの3種。今日は干しぶどうがないのか。
カレーを待っている間に、強者の風情のにいちゃんを過ぎおっちゃんにさしかかった頃合いの男が入店してきた。何かのセットを注文して、店員に問われて、それぞれ「中辛」「アイスコーヒー」と答えていた。まだ古強者ではないようだな。
少し経って、まだ自分のカレー&スパゲティーが出てくる前に、件の男が、店員に向かって口を開いた。
「すみません、飲み物、」
ははは、注文を変えるつもりだな。かつては自分にもそんな時期があったなあと、一瞬懐かしさをおぼえた。男は続けた。
「飲み物、先にもらっていいですか」
ははは、何を言い出すん...なにィ、店員がすぐにアイスコーヒーを用意したぞ。俺様のカレーがまだ出ていないのだから、後から入ってきた男のカレーが出ているはずもない。つまり、セットメニューの飲み物は、食前に出してもらってもよいということなのかッ。ぐぎぎ。敗北感を隠し、冷静を装ってカレー&スパゲティを待つ。そうだ、食い終わってから飲んだほうが良いに決まっている。
しばらくして俺様のカレー&スパゲティが届いた。うまいうまい。敗北感は霧消した。このあとにアイスティー飲めるんだぜへへへ。
堪能していると、洒脱とうさんくさいの中間に位置する風情の初老の頃合の男が入店してきた。勤務先によく出入りしていたおっさんに雰囲気が似ている。あのおっさんはうさんくさいの方が超越していたが、こんどの男は拮抗しているぞ。さて、パピー利用者としてはどうなのか。
店員が注文を聞くと、何かのカレーを注文した。セットではなく、単品だ。カレーの辛さは告げなかったが、これはヴェテランかもしれん。実は俺様はセットメニュー以外を注文したことがないのだ。
店員はカレーの辛さを尋ねた。男は一瞬逡巡したようなそぶりを見せたあとで、こう言った。
「ちょ、ちょい辛?」
しかも、語尾が半端に高くなる、かつて変なやつらが多用していた、その呼び習わし方も大変気色悪い、いわゆるひとつの「半疑問形」というところのもの、みたいな、やつ、であった。
店員は厨房に向かって「カレー、中辛」と告げた。