家島

zushonos2008-02-10


兵庫県姫路市家島(旧家島町)で散髪してきた。兵庫県で散髪することは決まっていたが、当初は豊岡方面の山中を狙っていた。しかし、往復を自分の運転で行くには少々遠い。散髪するのに遠出が必要な昨今は、往復の疲労で、肝心な散髪中に寝てしまうことが多かった。ガソリン代、高速代も馬鹿にならない。片道13000円くらいか。
現地までの交通手段で、安くて時間を有効に使えるのが夜行バスである。一泊分浮くことになるし、夜通し移動できる。寝られるが身体に良くないというのはこれまでの経験で知っているのだが、自分で運転するよりはましだ。今回はJRハイウェイバスを東京<->神戸の往復で予約して、15000円程度。新幹線なら片道でこれくらいかかるし、飛行機も同様だ。バスは数社が運行していて、少々お高いのだがこれを予約して「運転手つきのベンツで往復」というねたにしたかったのだが、予約が間に合わず運転手つきのふそうになったのは既報のとおり。金曜日の夜行バスで神戸に行き、土曜日の夜行バスで東京に戻る計画であった。
バスで神戸まで行ったとして、神戸から豊岡に移動するにはレンタカーが必要で、これまた金がかかる。しかも雪が降るという予報だ。それ自体は歓迎なのだが、スタッドレスタイヤを借りるとまたレンタル料がかさむ。勤務先の福利厚生をつかえば3割引くらいで借りられるはずだが、年末の盥回しで懲りたし、出発まで時間がない。結局自分で運転する区間があるなら最初から最後までとも思えてしまう。といって公共交通だけだと山中深く入っていけない、あるいは便数が少なくて大変なことになりそうだ。神戸から行き来しやすく、私の散髪にふさわしい地域はほかにないだろうか。
地図を眺めていて、まずは神戸港から出ている淡路島行き航路が目に付いた。淡路島も良さそうだが、いささか面白味に欠ける。引き続き地図を眺めると、淡路島南東部に沼島がある。しかしこれは遠すぎる。そうだ、瀬戸内海で、沿岸の都市から直接船が出ていて、適度に小さい島があれば最適だ。調べてみると、姫路港から片道30分の家島が該当した。市町村合併姫路市になったのだが、それまでは家島群島でひとつの町だったところだ。
およその目的地域を決めたあとは、散髪屋の有無も調べずに、行き当たりばったりを原則としているのだが、今回はさすがに外れを引いてしまうと大変なので、googleで「家島 散髪」をキーワードに検索した。結果、散髪屋があることは確認できた。

金曜日の夜は22時6分自宅最寄駅発の電車に乗ればバスに少し余裕をもって間に合うことになっていたのだが、出発がぎりぎりになってしまう。家から駅まで必死で走る。途中でポータブルオーディオを忘れてきたことに気づく。夜行バスではポータブルオーディオの有無が快眠の秘訣と考える私にはなかなかの痛手だったが走る。駅には1分ほど早着。一度乗り換え。この電車は進行方向の踏切りに侵入者が発生したため5分遅れ。当初からバスには余裕がある便だったので困りはしなかったが、最初からわかっていればポータブルオーディオを取りに帰れたのに残念。
バスは幸い窓際の席で、しかも階段の真上で後ろに席がなく、遠慮なくリクライニング。周囲の人も静かで、オーディオがなくても眠れた。明け方、窓からの冷気が気になると思っていたら、雪が降っていた。土曜日の朝から関西は大雪。
神戸でモバイルsuicaが使えることに感心。姫路までJRで移動。1時間弱、950円。姫路駅からバスで姫路港へ。30分、260円。姫路港で傘とZIPPOオイル、のど飴を買った。持参したZIPPOカイロに点火。暖かい。港からはその名も「高速いえしま」で30分、900円で家島に着く。家島は想像していたよりも立派な港であった。以前は「家島町」だったのだから、当然の規模なのかもしれない。
まず城山公園に上ったあとで、家島の北側はほとんど歩いた。斜面にへばりつくように建てられた家々と、徒歩のみ通行可の狭い通路が印象的。平地部の道路も道幅が狭く、税金等の背景もあると思われるが、四輪はたいていが軽自動車で、さらには原付スクーターが各家庭に標準装備されているようだ。

カブよりもメイトが多い印象を受けたが、どうやら島内のバイク屋が主にヤマハを扱っているようだった。なんだか道路交通法の適用はゆるいらしく、傘をさした以外は頭部を保護せずに運転する人や、家族総出で乗っている人たちなどが見られた。もっともこんなものが吹き飛ぶようなできごとが島を出る前にあったのだが、それはねたとしても書くのがはばかられる。
島のメインストリート(おそらく真浦地域)は狭いが軽自動車は通れる広さで、それなりの交通量がある。スーパーマーケットや書店、酒屋、食堂も数件あり、散髪屋は3軒もあった。ここは押さえにとっておいて、徒歩圏内はひととおり行ってみることにした。湾に沿った道を東へ行く。港になっていて、大小の船がたくさん。かもめもたくさん。山肌にはツグミやウグイスもたくさん。遠くからでも立派な灯篭と鳥居が見える東端の神社まで行きたかったが、集落が尽きてからまだ距離があったので、最後の集落で引き返す。帰りは海から一本入った宮の集落の中を歩いたのだが、ここで4軒目の散髪屋発見。
だが、まだ中学・高校がある集落に行っていない。中学校方面に歩いていくと、狭い坂道の途中にまた1軒の散髪屋があった。おそらくこれが最奥の散髪屋だろう。それでもこれまた押さえにとっておいて、さらに先に進む。なかなか急な坂を上った峠から、坊勢島への渡船乗場が見えた。坊勢にも行ってみたかったが今回は諦めて、さきほどの散髪屋で散髪することにした。
散髪屋の名前は「ヘアーサロンくろさき」だ。屋号なしだとなお良いのだが(島のメインストリートの3軒のうち2軒は屋号なしだった)、それよりも立地条件を優先した。それほど古めかしくも新しくも無く、散髪台は2台。立地条件以外は標準的か。ほかにお客もおらず、ドアをあけて「お願いできますか」と言うと、店主のおっちゃんが不思議そうな顔をして「何を」と問い返してきた。「散髪お願いできますか」と改めると「どうぞどうぞ」と中へ通された。
背中のザックを下ろし、コートとダウンベストとジャージの上着を脱いで散髪台に向かう。いつものごとく「2cm残して切ってください、あとはお任せします」と注文して散髪開始。おっちゃんはさっそく「どこから来たのか」と食いついてきた。よしよし。神奈川県から来た、全都道府県で散髪するのを目標にしていて今回は本当に散髪目的の旅行であるなど、いつもの説明をする。
やはり一見の客はいないそうで、しかし姫路まで船で30分の島であるからして、姫路との人の行き来はかなり多いという背景から、本土から来る人自体はそう珍しくもないという様子だった。たまにザックを背負った人が訪れることがあるが、そのような人は行商人なのだという。それで最初に「お願いできますか」だけだと通用しなかったということだ。散髪屋に行ってお願いすることといえば散髪だけだと思っていたのだが、そうでもないんじゃなあ。
おっちゃんのご子息も姫路在住で、散髪のたびに帰省するのだという。おっちゃん自身もおそらく頻繁に行き来するのだろう。島の人口は減少中、合併によって役場の雇用が減少したのが大きな打撃てな話を聞いた。島内には立派な家も多いが、廃業してしまった商店も散見された。
散髪中に、お客なのか遊びにきただけなのかわからない近所のおっちゃんが二人やってきて、私をだしにした会話でそこそこ盛り上がっていた。おかげで散髪終了後、散髪屋のおっちゃんに車でさきほど行きそびれた神社まで送ってもらうという話に、多分お客のおっちゃん二人も賛成してくれた。
散髪屋のおっちゃんの車では、おそらく島ならではと思われる、いろいろと素敵な出来事があったが、なかなか書きづらい。途中、廃業したパチンコ屋の前を通って万体地蔵という名所を経由してもらって神社前で下ろしてもらった。ありがとうございました。
神社の階段は運動不足の身体にはきつかったが、登って展望を楽しんですぐに降りてきた。岸壁で滑って転倒した。帰りは宮浦港から高速いえしまに乗った。
25年ぶりに姫路城に行ったが、時間が遅くて天守閣には入れずじまい。また行こう。アーケードの商店街でサンドイッチを買ってやっと昼食。姫路は適度ににぎやかでなかなか素敵な町だ。
姫路からJRで三宮まで引き返す。復路の夜行バスは22時40分に新神戸から出ることになっていたので、まずはポートアイランドに行ってヤス気分を味わったあと、引き返して三宮で夕食。ガード下的立地のとんかつ屋味噌カツめしを食った。
三宮からの距離感がまったくわからなかったので、少々早めではあったが、地下鉄山手線で新神戸に行く。21時過ぎに着いて、土産を物色。21時30分頃、バス乗り場の下見に行ったら、A4の紙切れ一枚で「本日の静岡・東京方面はすべて運休よ」という知らせが掲示してあった。いやこれはなかなか素敵な告知方法だ。しかも問い合わせ先は営業終了済み。新幹線も終了。往復で買っておいたチケットの払い戻しについては後日確認することにして、この日は漫画喫茶泊にした。
三宮駅前まで歩いて戻り、ビルの中にある漫画喫茶に行く。私がこれまで利用したことがある店と違って、会員登録は必要ない。夜間10時間で1980円。なかなか手ごろ。
翌日の交通手段を調べる。新幹線は約15000円。スカイマークエアラインなら11時20分に神戸空港を出る便が約12000円。後者にして、朝は有馬温泉か北野に行ってみることにした。
店内は意外にきれいでよかったのだが、PCのファンの音がとてもうるさく、自分のブースのPCの電源を切っても隣のブースのそれがやかましい。ポータブルオーディオを忘れたのが痛かったが、疲れていたのでそこそこ眠れた。
漫画喫茶を出るのが8時くらいになって、有馬温泉は時間的に難しい。布引の滝まで歩いていって引き返し、山肌を横断する遊歩道を経由して北野の異人館街を抜けて三宮に戻った。2日続けてかなりのアップダウンと移動距離が運動不足の身体にきつい。しかし神戸は市街地からすぐ立派な山があり、温泉もありで、素敵な立地ですな。
飛行機のチェックインがぎりぎりになってしまい、ZIPPOオイルやカイロを事前に発送できなかった。手荷物検査で当然ひっかかり、どうするか問われたので(おそらく特例で)着払いでの発送を依頼したものの、羽田に到着後の連絡で「保安上の理由で発送できません、2ヶ月程度なら保管できますが」と言われる。次回の散髪は鳥取か岡山の予定なので、そのときに立ち寄ることにした。もし廃棄することになったら、結局新幹線の方が安かったということになりかねない。
総じて、大したことはないような、面倒なような不測の事態が発生してなかなか楽しい行程であった。