夕日赤くと染めるような道を行き

zushonos2007-10-12

(2日前の続き)
過去、人口1000人未満の北山村や桧枝岐村で散髪したことがあるが、この2村はどちらかというと、集落が一箇所に集まっていたと記憶している(それでも散髪屋は一軒ずつしかなかった)。野迫川村は小さな集落が多数あり、それぞれの集落に少しずつ大き目の施設がある。集落Aには役場、Bには公民館、Cには温泉ホテル、といったところだ。民家だけの集落もある。そしてそれぞれの集落間にかなり距離があり、道は狭く、アップダウンも多い。たとえば役場まで出かけていく用事があるとき、別の集落に住んでいると大変だなあという印象を持った。これでは散髪屋は成立しないだろう。
野迫川村を一周している間に1時間が経ち、すでに16時。日が傾いて、山間の道はもう暗くなり始めた。日差しが当たらないと寒く感じる。急がなければ散髪屋も閉まってしまう。
来た道を引き返して、野迫川村に入る前に見かけた散髪屋を当たることにした。しかし、休業中だったり、きれいにまとまりすぎていたりして、なかなか雰囲気のよい散髪屋がない。途中でとてもよい雰囲気の散髪屋を見た気がしたのだが、あれは川上村だったのだろうか。洞川温泉まで戻っても、琴線に触れる散髪屋がなかった。
洞川温泉から川上村に戻るとなると、何もない林道を走る時間が惜しい。それならば、県道を北に抜けて、黒滝村で散髪屋を探す方が得策だろうと判断し、県道48号を北に向かった。
すぐに民家が無くなり、細く暗い山道になった。日没直前で、峠の東側の道はほとんど真っ暗だ。峠は岩がむき出し、照明なし、ほぼ1車線の狭いトンネルだ。写真を撮りたかったが、時間がもったいない。
対向車もいないのでトンネルに突入すると、半分くらいまで進んだところで対向車(四輪)がトンネルに入ってきた。しかもでかい。たぶんハリアーだった。普通は後から入る方が入り口で待つもんじゃろと思ったが、どんどん進んでくる。こちらがバイクなのでなんとか行き交えるかもしれないと思いながら前進すると、5mほどの距離まで近づいて、どう考えても簡単には行き交えないことが明らかになったのでひとまず停止。
待っていればバックするだろうと思ったら、運転席の窓を開けて近づいてくる。急いでいて気が立っていたので、なんじゃ、やるんかいと思って構えていたら、おっちゃんは開口一番「洞川温泉へはこの道で良いのでしょうか」と抜かした。「ああそうですよしかし今はすれ違えるかどうかが問題だと思いますがいかがですか」と言ったら、バックせずに前進してきた。助手席におばちゃんが乗っていたが、この人も道を譲る気はないらしい。面倒なので、ごつごつした岩肌がむき出しの壁にバイクを立てかけるようにして避けてやったら、相手はなんとか壁にぶつからずに通り抜けていった。ひとこと「どうも」とかなんとか言っていたが、極めて腹立たしい。とはいえ先を急がねばならん。
トンネルを抜けると県道は右に直角に折れていて、その先も細い山道が続いていた。北に向かって下っていくと黒滝村の集落が出てきたが、商業施設が見当たらない。役場の周辺にも散髪屋はない。ここで県道は分岐しており、そのまま北に進むか、分岐を西に行って国道に出るか迷う。
時刻はすでに18時近い。完全に日没して辺りは真っ暗。北進すると集落がありそうにない。西進すれば国道に出るので、最悪の場合は国道をひた走れば散髪屋のある市街地に出られるだろうと判断し、西へ向かうことにした。
国道309号と合流するところに道の駅があったが、散髪屋はない。309号を北に向かう。国道といっても2車線で、そのうちセンターラインもなくなった。これはまずいなあ、もうしばらく走って街中の散髪屋に行くしかないかもしれんなあと半ば諦めていたら、暗闇に光るくるくる棒が目に入ってきた。営業中の散髪屋だ。しかも屋号を出していない、明らかに地元の人相手の理想的な散髪屋だ。わあい。
店舗の前に車一台くらい停められるスペースがあったので、店内にまっすぐ向けてバイクを停める。ヘッドライトが店内に向けられたかっこうだ。中には客はおらず、店主らしきおばちゃんが一人。完璧だ。
バイクを降りてドアを開けて「お願いできますか」と言うと、やはり一見の客は珍しいようで、怪訝そうな顔で「良くできないかもしれんけどそれで良ければやりますよ」との返事。もう言うことなし。
(つづく)