溢れる根比中食料

自動車の運転免許の教習に通っていた嫁が、卒業検定に合格した。10年近く、毎日のようにバイクを運転して公道を走っていたので、四輪の操作に慣れさえすれば、まったく問題ないだろうし、AT限定免許なので、操作もすぐに慣れるだろうと思っていたら、そのとおりだった。教習の終盤では、帰ってくるたびに「教官に褒められた」と自慢していた。ともかくおめでとうございます。これで四輪での遠出が多少楽になる。

そんな嫁は腰痛や肩こりがひどい。私も最近腰痛がひどくなり、整骨院に行った。それで弱音を吐いていたら、嫁が「どれだけ腰が痛いのか」と問うてきた。私は「4」と言った。単位が不明だが、このように適当な数字で度合いを示すのはよくあることだ。嫁は「何がどうやったら4になるのか」と私を問い詰める。少々ねじが緩んでいた私は「ペでヨン(4)になる」と答えた。嫁は「ならばこちらはチェでジウ(10)になる」と言った。普段私が駄洒落を言っても拒絶反応しか示さない嫁が自ら、しかもなんだかちょっとひどい駄洒落(呼び水の私の駄洒落もそうだが)で切り替えしてきたので、二名でひとしきり笑い、その後少なくとも私はやや落ち込んだ。

ひどい駄洒落といえば水面下での同僚、JTだ。この人は私と同じ年の生まれで、仕事の内容も近く、ついでに席まで隣だ。会社に入ったのは私の方が先で、JTは私が今の部署に配属された半年後に転職で入社してきた。このとき部での歓迎会のようなものが催され、そのときのJTの挨拶からして「この転職の結果を天職にしたい」という駄洒落だったが、その後の駄洒落ぶりを見る前の我々にとっては、なかなかうまいことを言うとか、そのような評価だった。

JT入社後の1年半は、JTの仕事の面倒を見る直属のアニキはKさんで、私の仕事の面倒を見る直属のアニキはSさんだった。Kさんは、JTが担当することになった仕事を全面的にこなしていたが、JTの入社によって、それまでの仕事をJTに引き継ぎ、自身は課長的な立場になっていた。そのせいか、JTに辛く当たることも多かったようだが、Kさん自身もいろいろと辛いことがあったようで、会社を辞めてしまった。結果、JTと私の直属のアニキがSさんになった。

Kさんは文学青年的な色が濃く、おそらく駄洒落には否定的な立場をとっていたのではないか。いろいろと魅力的というか興味深い人ではあったが、こと駄洒落に関してはつまらない人だったと思う。その点Sさんは駄洒落の塊のような人だった。Sさんを交えて、3人でひどい駄洒落を交し合う機会が増えていった。

考えてみると、私は男前が嫌いなのかもしれない。一見しただけではただの男前のJTとは、なんだかあまり話すこともなかったのだが、駄洒落を言うやつに悪いやつはいないという判断から、徐々に打ち解けてきた。

同い年なので話題もそこそこ一致する。JTが持ち出すねたは世間でもてはやされてから1年以上経過したものが多く、本人はそれを意識せずに新しいねたとして持ち出している節があるが、まあそれはそれでどこか安心感がある。横浜市育ちのJTだが、長野県の大学に通っていたということもあり、どちらかというと山が好きだという嗜好も合った(JTは山関係が仕事のような気もする)。

そのうちだんだん遠慮がなくなってきて、JTは自虐ねたを披露するようになってきた。頭髪が心配だというのだ。言われるまでは気づかなかったが、確かにそういわれてみると決して豊かではない。以来、地名や山の名前で「増毛」「毛無山」といったものが出てくると盛んに話題にするようになった。

JTは「首が横に動く」という技を持っている。かつてグロンサンのコマーシャルで高田純次(ちなみにJTは通称であってイニシャルではない。JTの外見はどちらかというとRO(ルー大柴(個人的には褒め言葉)))がやっていたあれだ。なんでもJTJT母、JT妹は同じことができるが、JT父はできないらしい。「昨日は3人で首を動かした」という報告を受けてとてもうらやましく思ったことがある。

これらの要素から、JTは「セミ-アップトゥデイト」「額から下が男前」「DVD」といった異名をとるに至っている(私以外にはあまり使われていない)。

そんなJTが、今日結婚式を挙げるという。結婚する可能性が50%を超えた(JTが結婚するつもり:100%、相手が結婚するつもり:0%)ころから新婦の名前を教えてくれと迫る私に対して、JTは「イニシャルはKS」とだけ教えてくれていた。その後、さまざまな段取りを経て、結婚式の日取りも決まったころ、しつこく新婦の名前を教えてくれという私に対して、JTはやはり教えることを拒絶。いわく「結婚式が終わるまでは何が起こるかわからない」。

おもしろいことを言うなあと思って、後日、SさんにJTのせりふを伝えたところ(JTは不在)、さまざまな経験を積んだSさんは「甘いなあ、結婚式が終わったから安心なんてことはないんだよ」と言っていた。

ともかく、お幸せに。昼間元気だったら盗撮に行きますよ。