ギガスでもクエスターでも謎の壁でもない

一家で占拠


六月病開始。

6月から違法駐車の取り締まりが強化されたということだが、私が朝晩通る場所では、前月比9割程度の違法駐車は維持されており、変化がわからない。駐車については車両が無人になった瞬間に取り締まり対象になるようにしたそうだが、停車は相変わらず手ぬるい対応と聞く。こうなったら駐車禁止を廃止してすべて駐停車禁止にせよ。

水面下での業務は6月になっても苦さを増すばかり。病気の原因の9割は水面下にあると断言できる。苦味成分で著名なのはアルカノイドもといアルカロイド。タイトルはつまりそういうことだ。

そんな苦味の合間を縫って、日曜日は嫁実家で家族の集会があった。私と嫁は毎週のように嫁実家に通っているが、この日は嫁兄夫婦がやってくるというので、集会が開かれることになったのである。

「嫁兄夫婦がご飯の友を買ってくるので嫁実家でご飯を炊いて晩飯を食う」というのが嫁を経由して私に伝わってきた情報だった。19時半に嫁実家に到着。嫁母の準備した炊飯器はすでに稼動しており、白米5合を炊飯中。友達の結婚式帰りの嫁妹は南アルプス天然水のおまけフィギュアを私に渡しつつ満腹を訴え、嫁父はケンタッキーフライドチキンやずんだ団子を食っていた。

ほどなく嫁兄夫婦が到着。嫁実家には嫁父、嫁母、嫁兄、嫁兄嫁、嫁妹、嫁、私の7名がそろった。嫁兄が「自分が着ると胸がぱんぱんになって秋葉原風味になるためもう着れない。あなたが着なさい」と、龍の柄のおもしろシャツをくれた。ワアイ。一方、ご飯の友はパックに入った佃煮の類で、うまそうではあったが、主なおかずにはなり得ない分量であった。しかし準備してあるのは5合のご飯のみ。

この事態に直面し、ご飯の友という表現のわかりにくさへの抗議、おかず食材の買出し指令、親戚の健康、満腹の主張、昨今の仕事の状況、外食の提案、ずんだ団子を食わせろという主張、運転免許の教習状況、ご飯の友のつまみ食い、PCの調子、練乳の好き嫌い、ステーキを食う案、嫁実家の新車自慢など、さまざまな話題が飛び交った後、居酒屋に行って飲み食いしようという結論になった。この間およそ一時間。空腹でも満腹でも調整が利きやすいなかなか適切な結論に思えたが、家族で居酒屋に出かけるというのは新鮮だ。私の故郷では酒を好んで飲む人が少なく、たまたまそのような機会がなかったのだろうかと考えてみたが、嫁母も居酒屋に行ったことがなかったそうなので、居酒屋行きは慣例ではなく思いつきだったのですね。

居酒屋が多い駅前に向かって、7人でそぞろ歩く。その前に家の前の駐車場内で嫁実家新車(with希望ナンバープレートで嫁父の名前に語呂合わせしたナンバー)披露会。バックモニターを見せるために、駐車スペースの中で5cmくらい前後したりする。やっと終わって歩き始めてからもなかなか沈黙が訪れない。人気ステーキ屋の前を通ったときは居酒屋行きの話を置いて店を覗き込む。駅前商店街では横断歩道の信号が点滅し始めてあわてて横断。しばらく歩いた後で目的の居酒屋が道路の反対側(元いた側)にあることが判明。酒が入る前から良い調子である。

やっと到着した居酒屋では、タッチディスプレイによる注文システムに興味津々から始まって、嫁・小姑問題ごっこ、クリスチャン一家にあって神輿担ぎを趣味とする嫁兄の神輿筋情報、やっぱり話題になるカトー、目新しい話題では嫁兄・しょうへいくんの仲疑惑などの話が飛び交った。どれも楽しめたが、この日の主役は嫁父だった。

以前書いたように、嫁父は社会に於いては大変に尊敬される人だが、酔ってくるとよくしゃべるか良く寝て、平常とは違った魅力を放ち始める。この日はよくしゃべる方だった。とはいっても、比較的真面目な内容が多く、他の面子のように、意図しておもしろい話にしたり、意図せずともさまざまにおかしい話になったりというものではない。また、皆よくしゃべる一家なので、それほど目立ちはしない。

ともかく全員が十分しゃべって笑って満足し、お開きにしようという段になり、ヴェテラン姐さん風の店員に精算を依頼。その後、嫁父が全員の会計を持ってくれることを表明、一同が歓声を上げた。少しして戻ってきた姐さんが壁を背にして座っていた嫁父に、テーブル越しに伝票を渡す。嫁父は、いろいろ入った立派な財布を探ってクレジットカードを探すが、酔っているためなかなか出てこない。何度か財布を表返し裏返し、やっと目的のカードを探り当てた。この時点で、我々の着座位置は以下のようになっていた。なお、嫁本人以外は嫁を略し嫁兄嫁は姉とする。

通路→============
     嫁 兄 姉 姐
テーブル→□□□□□□□■←注文用タッチディスプレイ
     私 妹 母 父
壁→−−−−−−−−−−−−−

嫁父は、体の前で、財布を左手に、カードを右手に持って構え、その状態から、右掌を上に向け、肘を軸に、体の外側に向かって水平に回転させた。名刺を渡すような動作とでも言おうか。つうかカードを渡す動作そのものではあった。

ただし、嫁父の手は、姐さんのいる正面では止まらず、そのまま肘を軸にした回転を続け、タッチディスプレイの上方まで行って止まった。ディスプレイの向こうには、隣のテーブルがあるだけで、このときは無人であった。つまり嫁父は無人の空間に向かってカードを提示したのである。視線はあくまで姐さんの方に向けていたので、ノールック提示であった。

財布と格闘しカード確保→颯爽とノールックでカードを提示→ミスパス、であった。嫁父の性格上、狙ってやったわけではない。酔っ払って正面で手が止まらなかったのか、あるいは照れ笑いしながらの「右のほうに誰かいると思った」という釈明が真相なのだろう。ともかく一同爆笑。姐さんも爆笑(故意だと思ったらしいけれどもね)。さらに、少し前は通路の陰で頭痛を堪えるような仕草で苦しそうにしていた兄ちゃん店員も爆笑しており、笑いは人を癒すものだと感心した。

店を出て、帰る途中に一同でイトーヨーカドーに寄ってアイスクリームやらチキンラーメンやらなにやらとにかく好きなものを購入。まだ食うつもりなのだこの人たちは。閉店間際でほかの客が少なく、食品売り場から上の階に上がるエスカレーターを7人で占領したりした。この一行の最年少は来年30歳になる。

日常の苦味が雲散霧消とまではいかないが、とても気分のよい時間を過ごした。帰りに嫁兄夫婦を家まで送っていった際、嫁兄嫁が、今日のように嫁一家と過ごす時間について、楽しいのは間違いないのだが、あまりにも日常とかけ離れた空間に放り込まれるため「フルカワ(嫁実家の苗字、すなわち嫁兄嫁の苗字でもあるのだが)酔いする」と評していた。これは心地よい疲労というやつだなと思った。

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