愛子

「あいこ」と読んだ場合に想起されるのは、5年ほど前、水面下での勤務を仰せつかって間もないころの話。
業務に関係ある資料を眺めていると「アイコランド」という表記が目に入った。当時はバイクが大好きだった私には、これは誤りで、実際にはバイク用品店「ライコランド」が正解であると知れた。
誤りを訂正したいのだが、右も左もわからない(上も下もわからないと言わないのはきっと人間の目あるいは脳が左右の認識が甘く鏡文字を書いてしまいやすいというところに起因するのだろうが、私の姉はドラゴンクエストIIをやっているときに私が「右だ、左だ、上だ、下だ」と進行方向を指示していたら上下を間違えたことがある)ころだったので、とある先達に訂正したい旨相談した。世間ではコラージュというよりもいわゆるアイコラの存在が認知され始めていたころで、これに先立ってモンティパイソンでコラージュを認識した私にとってそれは忸怩たる思いを伴う風潮ではあったがそんなことはともかく、相談した先達は、後に分かったのだが、自他ともに認める変態な方で、アイコランドの「アイコラ」部分に着目して大いに喜んでいた。
本題に入るためには「あやし」と読むと好都合だ。あやしと聞いて想起されるのは「愛子」の他には「怪し」と「妖し」が代表であろう。
高校のときの世界史担当教師アキオは、さまざまな口癖(例:「彼、もとい彼女は」「○○、という側面がある」)を駆使していたが、その一つに「いかがわしい」というものがあった。当時の私の認識では「いかがわし」が意味するのは「妖し」に限られ、「怪し」の意味は持たないはずという偏ったものであったので、どう聞いても「怪し」でしかない場面で繰り出されるアキオの「いかがわしい」には非常な違和感をおぼえたものだ。いまでは「いかがわし」は「妖し」のみならず「怪し」の意味もあると辞書で読んだため、知識としては認識しているが、やはり感覚的にはまず「妖し」を連想する。
で、私にとっては非常にいかがわしいものが、連休明けに水面下に届けられた。今回初めて知ったのだが、わりと前から存在していたらしいそれは北海道土産の「恋人広場」http://www.shiroikoibito.ishiya.co.jp/goods/loversseries/hiroba/。「白い恋人」で著名な石屋製菓商品の詰め合わせである。失礼ながら、初見では「白い恋人」のパロディ商品かと思った。サザエボン(まだあるのかね)と同様のものかと思いましたのよ。が、正規品であった。
まず名前が気になる。「恋人」はまあ白い恋人があるから妥当ではあるのだが、今やそれはカレシやカノジョ(いずれも平板アクセント)に取って代わられてなかなか耳にしない。10年以上前にラジオ番組ヴィンセントコールで聞いた「いまや『軍団』といえばたけし軍団日光猿軍団、それか石原軍団」という表現に倣えば「いまや『恋人』といえば白い恋人か褐色の恋人スジャータ、それかお口の恋人ロッテ」くらいだろう。「広場」も同様だ。空き地と広場はもはや日本にはドラえもんの中にしか残っていないのではなかろうか、いや、そんなことはない(歪んだ反語表現)。それでいてパッケージの英文は「LOVERS' LANE」。手元の電子辞書で広場を英訳するとまずSQUAREと出た。LANEはどちらかというと横町らしい。「恋人広場」ないし「恋人横町」である。
他の英文もなかなか意味深である。「INCREDIBLY SMOOTH」「DEEPLY SATISFYING」「(はあと)GUARANTEED(はあと)」。詰め合わせの中身はチョコレートも含まれるので、SMOOTHという表現は一般的なのかもしれない。しかしINCREDIBLYとは。人気商品の詰め合わせであるからSATISFYINGではあろう。しかしDEEPLYとは。(はあと)x2とは。
写真では分かりづらいが、缶の地色は薄い桃色。
「恋人」と、詰め合わせ感のある「広場」を組み合わせることが最初に決まって、組み合わせてみるとなんだかあれで、あとはエスカレイトしていったのではないかと妄想されるのだが、どうなのかしらね。